『何から手をつければいいか分からない』から始まった、老舗商社のDX構想策定

お客様プロフィール

田窪株式会社
URL:https://www.takubo-grp.co.jp/
企業規模:国内外合わせて80名(国内60名、海外20名)
業種:アパレル副資材卸売(ミシン糸、釦・ファスナー・芯地等)
担当者:代表取締役社長 河合 恵子
田窪株式会社は、愛媛県今治市に本社を構える老舗商社である。ミシン糸や縫製副資材の卸売を営みながら、大口の取引先から個人客まで幅広い顧客に対応してきた。しかし社内には業務マニュアルも業務フロー図も整備されておらず、「何から手をつければいいか分からない」という悩みを抱えていた。
クオンティアのPSXセクターは、約3ヶ月にわたる現地常駐とヒアリング30回・50時間超を通じて業務の全体像を可視化し、短期・中期・長期の3段階のITロードマップを策定。提言だけで終わらせず、研修の実施まで踏み込んで現場が実際に運用できる状態まで伴走した。
今治の繊維商社の商習慣と顧客観
田窪株式会社は愛媛県今治市に本社を置き、創業から長い歴史を持つ老舗商社である。ミシン糸や釦・ファスナー・芯地といった縫製副資材を、国内の縫製工場やアパレルメーカーに卸している。受注は主に電話で受け付け、販売管理システムに入力したうえで箱詰めし出荷するという流れが基本だが、発注書は手書きでルーズリーフ状の紙にまとめ、FAXで送信するのが日常だ。取引先の多くも同様にFAXでのみ発注してくる企業であり、隣町から糸を1本だけ買いに来る個人客にも、大口の取引先と同じ真摯さで対応する。
同社は、この体制で20年以上にわたり業務を成立させてきた。こうした顧客との関係性を重視する事業運営が、長年にわたり同社の成長を支えてきたのである。こうした背景から、業務の中でIT活用の必要性が高まる場面は多くなく、全国に営業所を展開する規模でありながら、専任の情報システム部門を設ける必要性も高くなかった。このことが、後述する課題につながっていく。
「何から手をつければいいか分からない」から始まったプロジェクト
相談を受けた時点で、同社は日々の業務における非効率や属人化を感じていたものの、何から着手すべきか整理できていなかった。相談内容自体もまだ曖昧な段階であり、クオンティア側も、表面的な相談内容だけでは本当に解決すべき課題を十分に捉えきれていなかった。
そこでクオンティアが重視したのは、まずヒアリングを通じて現状の業務や困りごとだけでなく、将来的にどのような状態を目指しているのかを丁寧に確認し、双方の認識をそろえることだった。
ヒアリングで見えてきた課題の全体像
プロジェクト開始前、クオンティアは「在庫管理が仕組み化できていない」ことが主要な課題ではないかという仮説を立てていた。しかし実際にヒアリングを進めると、実態は異なっていた。
- 長期間の運用を通じて更新ルールが曖昧になっていたマスタ
- 何でも入力できるフリーコード欄での運用
- 受注と発注が紐づいていない仕組み
- 基幹システムの利用ルールや手順が明文化されていないこと
これら複数の要因が関係しており、一つずつ解きほぐしていく必要があった。
仮説に固執せず、実態に即して課題を捉え直す。このプロセスこそが、クオンティアのコンサルティングとしての思考の深さを支えている。
資料がない状態から業務の全体像を描く

このプロジェクトを難しくしていたのは、業務マニュアルや業務フロー図といった頼れる資料がなかったことだ。口頭でのヒアリングのみを頼りに、業務全体をゼロから構造化していく必要があった。
クオンティアは約3ヶ月間、受注・発注・在庫管理・仕入・売上に関わる全部署を対象に、今治に隔週で常駐してヒアリングを重ねた。部署単位で業務を切り分けるのではなく、受注から出荷・請求までの一連の流れを軸に、業務の開始から終了までを順番に確認。
一人の担当者の説明に頼ると前後の部署の認識と食い違う場合があるため、作成した業務フローの仮説を次の担当者への聞き取りで確認し、ずれがあれば修正する作業を繰り返した。通常時の流れだけでなく、在庫不足や納期変更といった例外時の実態とも整合させ、現場担当者に改めて確認してもらうことで精度を高めている。
現場への入り込み方
商品理解のため、朝一で届いた商品の棚入れ作業まで自ら実施した。同社では形式的な定例会よりも、必要に応じた対面での意思決定が中心で、空いている時間に社長を捕まえて話しに行くのが基本スタンスだった。
オンライン会議でも紙資料を活用しながら対面中心で議論を進める文化があり、画面投影ではなく、対面とホワイトボードでなければ議論が進まなかった。在庫管理システムについてはデモまで作成して具体的な運用イメージを共有したうえで、現場の実情に合った形での導入タイミングを見極めている。
提言で終わらせない、実行まで伴走する支援
現場常駐型の支援はこちら →現場と経営層、それぞれの視点から見えた課題
現場へのヒアリングで挙がった課題を経営層に共有すると、経営層が想定する業務運用と、現場の実態運用に差があることが見えてきた。これは同社に限った話ではなく、現場ごとに最適化された独自の手順や対応方法が積み重なるにつれて、拠点や担当者による業務の進め方の違いが生まれ、そこで生じる負担や問題が経営課題として言語化されにくくなるという、多くの企業に共通する構造だ。
現場任せになっていた業務を可視化し、経営層と現場の双方で共通認識をつくること。これが、支援における重要なテーマの一つとなった。
紙が担っていた役割と、それを前提としたシステム構成の発見
「紙をデジタルに置き換えれば効率化できる」一般にはそう考えられがちだ。しかしヒアリングを進めるうちに、紙は単なる記録手段ではなく、受注内容の確認・在庫の有無・発注状況・納期回答・出荷指示など複数の工程をつなぐ役割を担っていることが判明した。
既存システムも受注・仕入・売上といった結果の登録が中心で、発注・入荷・在庫確認・出荷を一連でつなぐ構成にはなっていない。一部の工程だけをデジタル化すれば、入力と転記の二重作業を生みかねない。紙をなくせば解決するのではなく、紙が担っている役割を分解した上で、業務全体とシステムの役割を一体で見直す必要がある。この気づきが、次のToBe整理につながっていく。
理想と現場の実行可能性を両立させた段階的なToBe整理

在庫の可視化や受発注業務の標準化、基幹システム刷新までを一括で進めることが理想ではあった。しかし現場には日々の受注・発注・出荷業務があり、新しいルールやシステムを同時に導入すれば、かえって業務が回らなくなる可能性があった。
そこでクオンティアは、最終的な理想像を維持しつつ、まずは効果を実感しやすく現場への影響を抑えられる施策から着手する段階的な計画を描いた。マスタ(商品名や規格・色番など、業務システムで扱う基本情報)の整備も数万点規模に及ぶため、一度に全件を整備するのは非現実的と判断。利用頻度の高い商品や、在庫管理・受発注への影響が大きい商品から優先的に整備する設計とした。
理想像を実現可能な単位に分解し、現場が対応できる順序に並べることで、理想と実行可能性のバランスを取った。
短期・中期・長期の3段階に整理したITロードマップ
既存システムの更新時期と、現場が新しい業務を定着させるために必要な時間。この両方を考慮し、施策を3段階に整理した。
- 短期:紙文化脱却に向けた運用改善
- 中期:マスタ整備を中心とした仕組み化
- 長期:マスタが整った状態を前提とした基幹システム刷新
短期・中期の取り組みは、長期的なシステム刷新を成功させるための準備期間として位置づけられている。システム刷新まで何も変えなければ紙中心の運用がそのまま残り、逆に業務ルールが整理されない状態で新システムを導入しても十分に活用できない。両者のタイミングを踏まえて3段階の設計に落とし込むことで、システム刷新だけを示すのではなく、短期でも実感できる変化を組み込んだ。
研修まで実施し、現場が使える状態に整えた電子化
短期施策の第一歩として、2026年6月、在庫許可申請の電子化に着手した。新たにシステムを導入するのではなく、既存のTeams・SharePointを活用し、紙で行っていた申請業務をTeams上での申請に切り替えた。
承認フローは手順書ベースで整理し、担当者向けの研修まで実施。手順書を整備するだけでなく、現場がその手順に沿って実際に運用できる状態まで落とし込んだ。長年紙を前提に回ってきた業務のやり方を切り替える最初の一歩として、確実に踏み出した成果である。
この短期施策は、中期で予定しているマスタ整備、長期で見据える基幹システム刷新に向けた土台として位置づけられており、ロードマップは現在も次のフェーズへ続いている。
最終報告書から研修資料まで一式で整えた成果物

最終的に納品した成果物は、
- 最終報告書
- 業務フロー図
- 標準フォーマット
- 操作手順書
- 研修資料
など多岐にわたる。
中心となるのは、約3ヶ月のヒアリングと分析結果をまとめた最終報告書だ。
- 現状の業務やシステムの課題
- 目指すべき業務の姿
- 短期・中期・長期の施策
- 実行ロードマップ
を一つの資料に整理した。これに加えて、
- 受注・在庫確認・発注・入荷・出荷など複数の部署をまたぐ主要業務の流れを整理した業務フロー図
- 在庫許可申請や受発注に関する標準フォーマット
- 営業所間の出荷依頼フォーム
などを整備し、それぞれについて現場向けの操作手順書や研修資料も作成した。
特に業務フロー図は、聞き取った内容をそのまま並べるのではなく、部署や商品によって枝分かれしていた手順を、共通する型に整理し直している点が特徴だ。マニュアルがなかった業務を、最終的には10パターン未満の型に集約。複雑に見えていた現場の動きも、実は一定の型に収まることを示し、以後の標準化やシステム化の土台として機能する整理となった。
提言だけで終わらせず、現場がその日から新しい運用を始められる状態まで落とし込む。ロードマップを描くだけの支援ではなく、実装まで踏み込むクオンティアの姿勢を象徴する成果である。
大量の課題も整理から始めるクオンティアの伴走姿勢
課題が多岐にわたり、何から手をつければよいか分からないときほど、最初から完璧な解決策や大きな改革を決める必要はない。まず重要なのは、現場で実際にどのような業務が行われているのか、経営層と現場で課題の捉え方に違いがないかを丁寧に確認し、課題の全体像を可視化することだ。課題を一つずつ整理すれば、すぐに着手できるもの、システム刷新と合わせて取り組むべきものが見えてくる。
社内だけで整理することが難しい場合は、外部の視点を取り入れることも有効だ。構想から実行まで伴走する――これは、クオンティアのPSXセクターが大切にしている姿勢そのものである。同様に、課題が多岐にわたり優先順位が見えにくいとお悩みの企業様は、ぜひPSXセクターにご相談ください。
現場ごとに異なる手順を標準化し、運用可能な状態まで伴走します
業務標準化・課題整理のご相談はこちら →AUTHOR

工藤 陽貴
シニアコンサルタント
大阪大学、同大学院卒業後、大手SIerを経て現職。銀行を中心に業務効率化、およびRPAを活用した自動化を多数経験。リーダーとしてプロジェクト設計からチームメンバーを率いて推進。要件定義から開発、リリースまで上流から下流まで一気通貫した支援が可能。