博士からコンサルタントへ、そして起業へ|Tech Ignition 古賀 一成

物理学者の卵は、理論物理の道を進み量子宇宙論の博士号を取得した。しかし学術の道は選ばず、AIスタートアップを経てクオンティアへ。コンサルティングの基礎も、ビジネスパーソンとしての型も、すべてをここでゼロから身につけた。そして在籍わずか1年で独立を決断し、宇宙線ミューオンを使ってトンネルや橋の内部をレントゲンのように透視する技術の事業化に挑む。自分の専門性で突き抜けることを選んだ、理学博士の起業ストーリー。なお、宇宙線ミューオンとは宇宙から降り注ぐ宇宙線が大気にぶつかって生まれる素粒子の一種である。物質を通り抜けやすく、この性質を利用すると、トンネルや橋などの内部をX線のように透視できる。
ABOUT TECH IGNITION
Tech Ignitionは、技術による事業変革のために最新知見で戦略を描き、未来を動かす確かな成果へ導くサービスです。
Tech Ignition セクターページへ →宇宙への憧れが量子宇宙論の博士号取得につながった
小学校のころ、古賀は親に小さな望遠鏡を買ってもらった。それ以来、天体観測が日課になり、「将来は天文学者になりたい」という思いをずっと抱いて育った。
中学・高校と進むにつれて物理を深く学ぶなかで、自分が本当にやりたいのは理論物理だと気づく。大学で物理学科に進み、興味の赴くままにテーマを掘り下げていった結果、たどり着いたのが量子宇宙論だった。
博士号取得後、大学に残ってアカデミアの道を歩む選択肢もあった。
しかしアカデミアの世界では、博士号取得後にポストドクター(任期付きの博士研究員)として複数の職を数年ごとに移り歩くのが一般的だ。任期のない安定したポジションに就くまでには、10年近い下積みが必要になることも少なくない。
そうしたキャリアの厳しさを目の当たりにして、古賀は研究者として大学に残る道を断念した。
「(理論の研究をしていたので)結果、必ずしも大学に属さなくても研究自体は続けられると思った」と古賀は振り返る。
実際、前職在籍中にも1本論文を発表し、現在も新たな論文を執筆中だ。研究への意欲は、形を変えながら今も続いている。
なぜクオンティアを選んだのか——起業を見据えた、コンサルタントという想定外のキャリアチェンジ
博士号取得後、古賀が最初に選んだのはAIスタートアップだった。数理的なバックグラウンドを評価されて社員7名という小さな組織に飛び込んだ。
1年目はエンジニアとして働いていたが、2年目にマネージャー業務へ移り、資金調達など経営に近い仕事を担うようになる。経営陣との距離感が近い組織でマネージャーとして働く中で、会社そのものを考える機会も増えていった。そのような関わりの中で、古賀は自分のキャリアの方向性を見つめ直し、将来的な起業を視野に転職を決意した。
転職活動中に見ていたのは、教育系の企業が中心だった。
「理論物理で世界を変えたいという思いがあって、自分みたいな人間がいっぱいいれば加速するという感覚から、教育という分野に興味があった」と古賀は言う。
当時、古賀のコンサルタントという仕事への解像度は極めて低かったと言う。「コンサルタント=すごい人たちの集団」というざっくりとしたイメージしか持っておらず、ほとんど理解していない中で話を聞いた。それでも、クオンティア代表の吉沢の語るビジョンが自分の起業への思いと重なって見えた。「刺激的な環境で成長したい、そして将来の起業ビジョンに近づけそうだという直感があった」と古賀は入社を決めた時のことを振り返った。
ビジネスパーソンとしてゼロから始めた入社後の日々

前職はスタートアップならではのスピード感と自由度がある環境で、ビジネスの型よりも即戦力としての動きが求められた。そのため古賀は、ビジネスパーソンとしての一般的な作法をあまり身につけないまま、クオンティアに入社することになった。
「コンサルティング以前に、そもそもちゃんとした働き方みたいなところから学んだという感じだった」と古賀は当時を振り返る。
壁にぶつかったというよりも、覚えることがとにかく多い状態だったと言う。もともと挑戦的な環境に身を置いて自分を高めたいという思いで入社していたため、次々と課題が降ってくる状況を前向きに受け止めていた。
アサインはほぼTech Ignitionセクターの案件が中心で、テクノロジー領域のプロジェクトを通じてコンサルティングの基本を実地で学んでいった。
ビジネスパーソンとしての型と、コンサルタントとしての思考法。その両方をクオンティアでゼロから積み上げた1年間だった。
生成AI活用プロジェクトで自走しながら実行力を身につけた
クオンティアでの仕事のなかで、古賀が最も印象に残っていると語るのが入社後に初めてアサインされた大手金融機関の生成AI導入プロジェクトだ。古賀は、このプロジェクトを率いるTech Ignitionのセクター長である坂井のもとにアサインされた。 「いまでも自分の基礎になっている」と振り返るほど、この最初の1ヶ月弱が古賀のコンサルタントとしての土台をつくった。
参画から1ヶ月弱経ったころ、坂井が別案件へ移ることになり、古賀がプロジェクトを引き継ぐ形となった。そのため、困ったときに相談できる環境はあったものの、基本的には自分で段取りを考えて動かしていくのを求められる。
「初めてのことだらけの状況で、自分でちゃんと段取りを考えて・・・、といったところを一から経験した」と古賀は振り返る。
プロジェクト全体の期間は約1年だったが、古賀が担当した期間は3〜4ヶ月ほど。
その短い期間のなかで、クライアントの課題を整理し、解決策を定義し、関係者と連携しながらやりきる力を、実戦のなかでやり切った。
エンジニアとコンサルタントの仕事で根本的に違ったこと
前述の通り、古賀のキャリアはAIスタートアップのエンジニアからスタートしている。そのクオンティア入社前のスタートアップ時代を振り返って、コンサルタントとエンジニアの働き方の違いをこう語る。
「エンジニアはこういうものを作りたいと言われたものを、ひたすら実装していく。受け身であってもやり方さえ間違えなければアウトプットは出せるし、評価もされた」
一方、コンサルティングの仕事は、その構造がまったく異なった。
「本質的なところを深掘りしていって、それに対する打ち手を考えて、ちゃんとクライアントに通さないといけない」という思考のプロセスが求められる。
与えられた仕様を実装するのではなく、課題そのものを定義するところから始まる仕事だ。
さらに古賀が痛感したのが、プロジェクトを進める上での段取りの重要性だった。
エンジニア時代には一つのプロジェクトを最初から最後までやりきった経験がほぼなかったと言う。その頃は「なんとなくうまくできればいい」という感覚で動いていたが、クオンティアでのコンサルタントとしての動き方を学ぶ中で、複数の関係者を巻き込みながらプロジェクトを成功させるには、計画と連携の設計が不可欠だと知った。
「エンジニア時代からこのような考え方ができていれば、もう少しうまくいろいろできていたのかなと思う」と古賀は話す。
この思考の転換が、のちの起業判断にも大きく影響することになる。
クオンティアが起業家輩出環境だと思う理由
クオンティアには、高い専門性と起業への志を持つメンバーが数多く集まっている。一人ひとりの志向に応じた道を歩める環境があるからだ。コンサルタントとしてスキルを積んだ先に、経営者・新規事業の立ち上げ・独立と、それぞれが目指す方向へキャリアを広げていける。そういう方針を会社が掲げているからこそ、尖った志向を持つ人材が自然と集まってくる。
その言葉を支えているのが、一人ひとりの成長と挑戦を後押しする仕組みだ。入社時のトレーニングやスーパーバイザー制度でコンサルタントとしての基礎を固めつつ、専門性と幅を両立させる「セクター×ワンプール制」では未経験の難易度の高い案件にも挑戦できる。キャリアや仕事の悩みをコンサル経験豊富なコーチにいつでも相談できる「Qoaching」、各分野のエキスパートが知見を共有する「QuonAcademy」も用意されている。さらに「Alpha Works(事業開発WG)」では、コンサルティングを通じて培った知見とリソースを活かしながら、事業創出を担う経営人材としての実践の場が社内に広がっている。
その環境のなかで古賀に最も大きな影響を与えたのが、同僚である萱谷との出会いだった。入社当初から技術的なテーマで語り合える相手で、「将来は一緒にAIで起業しよう」と本気で話し合う仲だった。
「いつかできたらいいなぐらいの感じだったんですけど、萱谷だったら一緒に本当にできるかもっていうのがあって。そこで真剣に考え始めた」と古賀は振り返る。
クオンティアという環境を、古賀は卒業した今もこう評価する。「いろいろな人と触れて、いろんな業界を見られる。社会にインパクトを与えたいと思ったときに、実際どんなペインやニーズがあるかをクライアントと直接話しながら知れる。ものすごいいい環境だった」と。そして専門性の高いメンバーたちと働いた経験が、自身の起業観も変えた。
「これだけの人たちが世の中にいるなら、足りない部分は助けてもらえばいい」と古賀は言う。
「個性豊かなメンバーが互いに補完し合いながらチームで挑む」——これはクオンティアが掲げる言葉でもある。入社当初は「コンサルタントとしてある程度ジェネラリストになってから起業しなければ」と考えていた古賀だが、その環境に身を置くうちに自然と考えが変わっていった。ディープテックの専門性ではすでに突き抜けている。足りないところは補い合える仲間がいる。それが、踏み出す後押しになった。
自分の強みで突き抜けたい方へ
クオンティアの採用情報を見る →自分の専門性で突き抜けて起業を決意するまでの経緯
起業のテーマとして、最初に検討したのはAI領域だった。クオンティア在籍中にAI関連の活動にも関わりながらネタを探していたが、「これだと尖りきれない」という感覚が拭えなかった。
そこで発想を転換し、自分が本当に突き抜けている領域で何かネタがないかを探し始めた。物理・数理的なバックグラウンドを軸に、素粒子・宇宙領域でまだ社会実装されていないテーマをリサーチしていったところ、宇宙線ミューオンを使った非破壊検査技術にたどり着いた。
調べてみると、技術自体は存在しているものの市場への普及はまだ限定的で、プレイヤーも少ない。
「シーズが早すぎず、今入り込めば市場が広がったときにうまく取れるタイミングだと感じた」と古賀は振り返る。
タイミングについても、迷いはなかった。
「早いなら早い方がいい。もしダメだったときにピボットするにも、早い方がいい」という判断だ。
技術への確信と市場への読みが揃い、在籍1年というタイミングでの独立を決断した。周囲のコンサルタントメンバーに対して、起業できることを行動で示したいという思いも背中を押した。
結果がすべてだと自分に言い聞かせながら、古賀は踏み出した。
宇宙線ミューオンでインフラの内部を可視化し社会課題を解決したい

古賀が取り組む技術を一言で表すなら、「インフラのレントゲンを撮る技術」だ。宇宙線ミューオン(Muon)とは、宇宙線が地球の大気に衝突することで生じ、地上に降り注ぐ素粒子の一種で、物質を透過しやすい性質を持つ。
見たい構造物の反対側に検出器を置き、通過してきたミューオンのデータを取得・解析することで、X線のように内部構造を画像化できる。自然に降り注ぐため人工的な照射装置は不要で、トンネル・橋梁・ダムといった大型インフラの内部も、破壊せずに可視化することができる。
この技術が解決しようとしているのは、インフラ検査の非効率という社会課題だ。現状の検査は表面しか確認できないため、内部にリスクを抱えているものとそうでないものを区別できず、一律の検査コストがかかっている。
「内部の潜在的なリスクを事前に可視化できれば、リスクが高いインフラに対して優先的な補修や追加検査を行うことができ、検査予算の最適化につながる」と古賀は言う。
最初のターゲットは自治体で、既存の検査サービスへのプラスアルファとしての展開も視野に入れている。ビジョンはX線の普及になぞらえて語られる。X線は発見から130年でいまや社会インフラそのものになった。
「 X線が医療用レントゲンとして当たり前に使われているように、ミューオンによるインフラ検査も、社会インフラの標準的な点検技術として世の中に広めたい」というのが古賀の描く大きな絵だ。
クオンティアは起業家を育てる環境だったと卒業生として思う理由
クオンティアのミッションの一つに「経営人材の輩出」がある。
それは、在籍中のコンサルタントを育てることに加えて「クオンティアで培った経験・思想・ネットワークを持った人材が、卒業後も経営者として社会に価値を還元し続けることで新たな価値を生み出していける」という考えに基づいている。そのビジョンを形にしたものが運営されているアルムナイ組織「Quontier NEX」でも体現されている。
コンサルタントとしてスキルを積んだ先に、経営者や新規事業の立ち上げといった多彩な道を描ける。そうしたキャリアの広がりをクオンティア自身が方針として掲げていることは、古賀にとって非常に魅力的だった。
「ちょっと過激な表現になるかもしれないですけど」と前置きしながら、古賀はクオンティアをこう表現した。
「自分の成長にとって、最高のステップになった」と。さまざまな業界のクライアントと直接向き合い、現場のペインやニーズをリアルに知ることができる環境は、起業家志望者にとって得難いものだったと振り返る。
また、自分の専門性で尖ればいいという気づきを得られたことも、クオンティアならではの収穫だったと話す。専門性の高いメンバーたちと働いたからこそ、専門特化で起業する道の解像度が上がり、足りない部分はプロに任せればいいという発想に至れた。
クオンティアを経由しなければ、起業していたかどうかも分からないし、もっと無難なテーマで始めていたかもしれないと古賀は率直に語る。
博士からエンジニア、コンサルタント、そして起業家へ。一見すると遠回りに見えるキャリアの各ステップが、ミューオンで社会を変えるという一点に向かって、確実につながっている。