構想や助言では終わらない。エンタープライズ企業の基幹システム刷新、FHRSが現場で担った「実行責任」
2030年を期限とした基幹システム全面刷新に挑むエンタープライズ企業。 多層ステークホルダーの対立と構想策定の停滞という難局に対し、クオンティアのFHRSセクターが段階的3ステップアプローチと地道な信頼構築で現場に伴走。 「実行責任」というバリューが体現された事例を紹介する。
FHRSセクターについて
クオンティアのFHRSセクターは、財務経理(Finance)・組織人事(HR)を横断し、CFO/CHROのパートナーとして経営管理の変革を支援するコンサルティングサービスです。「カネ」と「ヒト」を単なる管理対象ではなく経営の意思として機能させることをミッションとし、意思決定と現場が連動する経営管理の実現を目指します。制度・業務起点ではなく常に経営起点で課題を構造化・解決し、構想や助言にとどまらず成果として定着するまで伴走する実行責任を担います。グローバル水準での最適解を追求し、CFO/CHROが企業価値創出の中核として機能する世界を共に実装する専門チームです。
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2030年基幹刷新の使命と、止まった構想策定――なぜ外部支援が入っても動かなかったのか
このプロジェクトが始まった背景には、三つの構造問題が重なっていた。
第一は、SAPを巡るシステムの老朽化だ。
15年以上にわたる運用でシステムは陳腐化・複雑化し、保守できる人材が減少していた。
SAPのライセンス維持コストも高騰し続けており、2030年を期限とした全面刷新は避けられない経営判断となっていた。
対象はSAP本体に加え十数の周辺システムに及び、それぞれ異なる業務と関係者を抱えていた。
第二は、多層ステークホルダーの複雑な関係性だ。
業務担当(財務部)・現SAPチーム・新SAPチームという三者がそれぞれ異なる思惑を持って関与し、方針が定まらない状態が続いていた。
外部支援が入った直後、業務部門から「システム構想は作らなくていい」と告げられ、当初想定していた役割が白紙に戻るという事態が発生した。
第三は、財務部門の深刻な人員不足だ。
構想策定を担うべき財務担当のキーマンは2〜3名という少人数体制で、その一人が業務過多に陥り機能不全の状態となっていた。
結果として、十数システム分の構想策定がほぼ全面的に止まり、他チームからは「仕事が止まっている」「このままでは業務ができない」という声が上がっていた。
こうした状況の中、構想策定フェーズを担える上流PM経験者として、クオンティアのFHRSセクターに声がかかった。
クオンティアが選んだアプローチ――段階的3ステップと多層対話で、現場に半年間入り続けた
FHRSセクターが最初に決めたのは、役割論争がどれだけ長引こうとも、「やるべきことを裏で前進させ続ける」ことだった。
As-Is調査:現場と話せる状態をゼロから作る
プロジェクト開始にあたり、まず取り組んだのは業務の専門用語の習得だ。
クオンティアの担当コンサルタントは、財務・トレジャリー領域のマニュアルや設計書を一通り入手し、AIを活用して壁打ちしながら業務知識を先回りで習得した。
「業務の専門用語がわからないと話にならない」という認識のもと、現場と対等にコミュニケーションが取れる状態を自ら作り上げた上で、設計書・運用手順書等のドキュメント確認と担当者ヒアリングによる現状把握を進めた。
To-Be設計:守る業務と攻める業務を見極める
現状把握と並行して、To-Be設計の仮説を立て始めた。
アドオン開発に頼ったSAPを刷新するにあたり、「Fit to Standard」の観点から業務をシステムに寄せる方向性を設計し、守る業務(会計・財務の基本機能)と攻める業務(財務変革につながる機能)の線引きを行った。
脱SAP・SaaS移行を含む複数案を前提に構想を策定し、選択肢ごとのメリット・デメリットを比較評価したアウトプットとして次の会議に持ち込んだ。
多層ステークホルダーへの対話:役割論争の中でも止まらない
役割論争が続く中、クオンティアの担当コンサルタントは各タスクの、
- インプット
- アウトプット
- 役割
- 期日
を自ら定義して可視化し、プロジェクトを水面下で能動的に進め続けた。
財務担当のキーマンが業務過多で動けない状況では、そのキーマンが担うべきアウトプットを陰で支えながら、あたかもその担当者自身が業務を進めているような形を整えた。
「文句言われながらも、裏では作ってました」という姿勢が、プロジェクト全体を前進させる力になった。
ステークホルダーへの説明は提案型を徹底した。
反対意見が出た際には否定せず共感しながら、「同じゴールへの複数パスがある」と選択肢を提示。
比較評価をアウトプットとして翌会議に持参するサイクルを繰り返した。
「結果を出さないとこの先仕事がなくなる」という使命感が、どれだけ論争が長引いても前進し続けた原動力だった。
プロジェクトを経て、クライアントに何が残ったか――クレームの消滅と、信頼からの前進
半年間の伴走を経て、クライアントの組織には三つの変化が生まれた。
一つ目は、クレームの消滅だ。
プロジェクト当初、他チームからは「仕事がスタックしている」「業務が進まない」という声が上がっていた。
財務担当のキーマンが動けない状態に対する組織内の不満は、プロジェクト全体に暗い雰囲気をもたらしていた。
地道なタスクの積み上げと水面下での推進が実を結び、こうしたクレームは徐々に減少していった。プロジェクト全体の雰囲気が、前向きに転換した。
二つ目は、信頼の醸成だ。
当初、外部の支援者として懐疑的に見られていた担当コンサルタントは、タスクを一つひとつ丁寧にこなし続けることで、業務部門からの信頼を少しずつ積み上げていった。
「この人たちなら任せてもできる」という感覚が生まれたことで、ステークホルダーとの協働関係が本格的に動き始めた。
三つ目は、プロジェクトの前進だ。
十数システムのうち最初の1システムが構想策定フェーズを突破し、要件定義フェーズへ移行した。全体はオンスケで進行中(2026年4月現在)だ。
一方で、正直に補足しておくべきことがある。
財務変革の定量成果——業務効率の向上や財務機能そのものの変革——はまだこれからの段階だ。
「守りから攻めへ」の財務変革は本番に差し掛かったばかりであり、要件定義以降の踏み込んだ取り組みに期待が高まっている。
構想策定という困難なフェーズを乗り越え、クライアントの組織に残ったのは、信頼を基盤とした協働関係と、前進し続けるプロジェクトの勢いだ。
財務変革の起点は、現場の信頼にある――FHRSが「実行責任」にこだわる理由
本事例が示す教訓は、大規模システム刷新が止まる最大の原因が「ステークホルダー間の役割の空白」にあるということだ。
外部支援が入った直後に「作らなくていい」と言われ役割が消えるような事態は、決して珍しいことではない。
そこで撤退せず、論争が続く中でも現場に踏みとどまり続けられるかどうかが、プロジェクトの命運を分ける。
FHRSセクターが担うのは、「構想や助言に留まらず、意思決定が現場で機能し、成果として定着するまで伴走する」実行責任だ。
守りの業務(会計・財務)をFit to Standardで攻めの機能へと転換する構想は、まさに今動き出している。
大規模システム刷新に挑む経営企画・CFO・IT部門責任者にとって、構想が動かず、役割が定まらない局面はいつでも訪れる。
そのとき、構想と現場の間に立って実行責任を担えるパートナーがいるかどうかが、2030年という期限を現実のものにできるかを左右する。